決算特別委員会 令和6年10月15日(補充質疑)

2024/10/15

質問項目

 

質問

子どもの権利条例について

中里光夫 委員

 それでは、私からは、子どもの権利条例について、今日、他会派も何度も質問が出ていましたが、これをやりたいと思います。

 議会の議論の中で、権利と義務はセットだというのが今日もありましたが、ここの議論のところで私自身、権利と義務セットというのはどういうことなんだろうかというのを改めて調べてみました。そうしましたら、私法と契約――これは私の法と書くのですが――という法務省のホームページに出会いました。

 私法とは、個人や法人などの私人同士の関係を定めた法で、利益を調整することを目的としていると。その私法の基本法が民法だということなんですね。

 ホームページでは、私たちの生活は契約に囲まれていると。コンビニで弁当を買うのは売買契約、電車に乗ると旅客運送契約、友達からお土産をもらう、これは贈与契約など、契約を一度もしないまま一日を過ごす日はないかもしれませんというふうに紹介されていて、まさに日々の行動が、実は契約行為の連続だということを改めて私も知りました。

 そして、契約とは、当事者双方の意思表示が合致することで成立する約束のことという定義があるそうです。意思表示が合致していれば契約書を作成していなくても、口約束でも契約が成立すると。そして、契約が成立したら、その効力として、両当事者にそれぞれ権利と義務が発生し、義務を履行する責任が生じますと書かれています。

 例えば商品の売買契約では、売主、売る側には代金を請求する権利と商品を引き渡す義務が生じると。買主には商品の引き渡しを求める権利と代金を支払う義務が生じると。そして、それぞれ義務を履行する責任が生じるというわけです。

 契約の際の権利と義務は常にセットだと。生活の中のあらゆる場面に出てくる。

 そこでクリーンハンズの原則というのがあるそうです。これは、権利を有する者は自らの手もきれいでなければならないということで、義務を果たさない者に権利は認められないという考え方、これは民法上の契約では当然のことだというふうに思います。

 しかし、これ人権は別なんです。人権も権利の一種ですが、人権にはクリーンハンズの原則は当てはまらないと。人権は、人間が生まれながらに持っている必要不可欠で基本的な権利であり、基本的であるがゆえに奪ってはならないと考えられていると。憲法にある納税義務や勤労の義務を果たさなければ、職業選択の自由は認められないというような話ではないんだということなんです。

 制約はあると。人権は全ての人に認められるべきものですから、他の人の人権を侵してはならないという制約があります。例えば、表現の自由があるからといって、他人の名誉やプライバシーといった人格権を侵すことはできないというような関係です。

 この人権の考え方は、アメリカの独立宣言やフランス革命後の人権宣言から広がってきました。しかし、この誰にでも、いつでも、どこでも同じ人権というふうになったのは第二次世界大戦の後、国際連合ができて、一九四八年に世界人権宣言、ここからなんだということなんです。それ以前は、植民地の人、侵略された国の人々、そして女性や子どもは人権を持っていると考えられていなかったということなんです。

 私、「虎に翼」というドラマが好きで見ていたのですが、その中で、戦前の女性が法的無能者、こういう言葉を聞いて私も驚きましたが、そういう話が出てきたことを思い出しました。

 世界人権宣言は、第一条で、全ての人間は生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利について平等である。人間は、理性と良心とを授けられており、互いに同胞の精神をもって行動しなければならないとあります。世界人権宣言の後に国際人権規約だとか、女性差別撤廃条約だとか、人種差別撤廃条約、子どもの権利条約、障害者権利条約、こういった国際条約で法的拘束力を持った人権の国際基準が整備されてきたということなんです。改めて私も勉強になりました。

 日本は、この子どもの権利条約を批准していますが、現実の人権状況には課題が多いというふうに思います。いじめや虐待、不登校、ひきこもり、子どもの権利との関係でどうなのかというのが今、私たちに突きつけられているのではないかと思います。

 意見表明権についても、この社会が子どもの意見を拾い上げているかと言うと、これからの問題というところだと思います。今回の条例素案が、子どもの意見表明権の保障を実践的に示す取組をしたということで、大変貴重なことだというふうに私は思います。

 区議会で、権利と義務はセットだと、民法の権利と人権等を混同するような議論がありました。しかし、これは日本社会の中に広く存在する誤解の表れだというふうに私は思います。

 今日もユニセフのホームページのことが出ていました。このユニセフの子どもの権利条約のホームページを見てみますと、Q&Aがあって、その最初は、権利は義務や責任を伴うものかという問いなんです。答えは、子どもの権利は全ての子どもが無条件に持っているものです。つまり、権利はいかなる条件も伴いませんというふうに書いてあります。

 その二番目が、子どもが権利を知ると、子どもは自分の権利ばかりを主張するようになるのではないかという質問なのです。この問いに対する答えは、子どもの権利を知ることは、自分の権利を知るとともに、他者の権利を知ることでもあり、お互いの権利の尊重や信頼関係の構築につながっていくのだというふうにあります。これが最初に出てくるところに、日本社会の現状が表れているのではないかというふうに私は思いました。

 人に迷惑をかけるな、権利を振りかざす前に社会的責任や義務を果たせ、全ての意見が受け入れられるわけではないことを思い知らせろ、こんな発言が区議会の中でありました。

 社会的な規範として、一見正しく見えるこうした論調が同調圧力となり、言いたいことが言えない空気をつくり出してしまうのではないでしょうか。

 人権は無条件に守らなければならないものなのに、古い価値観や差別や偏見が人権を抑圧する社会的な圧力になっているのではないでしょうか。

 ある小学校の先生に意見を聞きました。こんなことを言っていました。権利を行使して、自分で決めたのだから、最後まで頑張れということは言うだろうけれども、やめる権利もあるよなと。言いたいことも言わずに、やりたいことも自由にやれなかった子どもは、ろくな大人にはならない、こんなふうに言っていました。

 自分の意見を主張することは大変勇気の要ることです。しかし、自分の権利を守るために、そして自分らしく生きるためには、勇気を振り絞って意見を表明する、これは大切なことだというふうに思います。

 同時に、他の人の権利を尊重すること、権利がぶつかってしまったら、お互いを尊重し合って、譲り合うことも大切なことだというふうに思います。だからこそ、権利が尊重される社会となるためには、自由に物が言える社会であることが大切なことだと。そして権利がぶつかったときに話合いができる社会であることが大切なのだろうというふうに思います。

 子どもの権利を法的に保障する子どもの権利条約ができて僅か三十数年です。そして、日本では、子どもの権利を認めたこども基本法は、一昨年ようやくつくられました。子どもを権利の主体として尊重することに、私たちの社会はまだまだ慣れていないと。だからこそ、子どもの権利を明記し、子どもの権利が保障される文化を育てようというこの条例は大変画期的であり、意味のあるものだというふうに思います。

 この間、子ども条例改正素案について、区議会でも活発な議論になっていますが、子どもの権利、義務、責任などの考え方も含めて、改めて条例改正素案までの考え方とポイントについて伺います。

松本 子ども・若者部長

 子どもは誰もが生まれながらにして権利の主体であり、子どもの権利は義務や責任を果たしたときに与えられるものではありません。一方で、社会において権利の行使は、お互いが尊重し合うことが前提であり、子どもの権利も同様に、一方的に行使できるものではありません。

 例えば、自分の言葉や行動により他者の権利を侵害したり、相手を傷つけた場合には責任が伴います。国連によれば、皆に権利があることを子どもが学ぶことで、多様性を認め合う寛容で柔軟な、また責任ある市民として成長していくことを示しています。

 区は、今回の条例改正を契機としまして、子どもたちに子どもの権利が保障されることだけでなく、権利の行使に当たっては、相手の権利を尊重し、相互の権利を両立させるための努力が不可欠であることについてもしっかりと伝えていきたいと考えております。

中里光夫 委員

 区長に質問します。先週、子ども条例改正のシンポジウムがあって、区長も参加されたということですが、条例改正に関わった子どもたちや大学生たちの声を聞いて、改めて子ども条例改正に向けての意気込みを伺います。

保坂 区長

 子どもの権利に関するシンポジウムでは、今回の子ども条例改正素案の前文、目標、子どもの権利を考えた中高生から、一つ一つのフレーズに込めた思いについての発表がありました。

 子どもたちからは、自分の考えたフレーズが採用されてうれしかった、また、子どもが参加できる会議をもっと増やしてほしい、さらに、自分が参加する場で話し合ったことが区の条例の案になるということに緊張したし、責任も感じたという意見もあり、子どもの声を聴く機会の設置と施策に反映させる仕組みづくりが重要だと認識したところであります。

 今回の条例改正を契機として、子どもの声が尊重される世田谷区、そして子どもの権利が当たり前に保障され、子ども自身が子どもの権利を実感し、行使できる地域と社会をつくってまいりたいと思います。

中里光夫 委員

 この子ども権利条例については、区議会の中で建設的な意見も、うちなんかも、もっとこうしたらというのも出してきましたけれども、大変期待しています。しっかりと進めていただきたいと思います。

 以上で終わります。

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